【前回の記事を読む】「ごめんね。いい子にしててね」僕の頭を撫でて、お母さんは行った。妹が「難しい病気」だから、お母さんはずーっと病院にいる。

すずさんへの余命宣告

そんなある日、久しぶりにお父さんとお母さん、珠ちゃんと四人でご飯を食べられる日があるって珠ちゃんが教えてくれた。

それは僕の誕生日。しおちゃんはお母さんのおばあちゃんが見ててくれるらしい。

十二月の初め、僕は凄く嬉しくてワクワクしてその日を待った。諦めていた誕生日会が開かれることもだけどお母さんがずっと家にいてくれることがただただ嬉しかった。その日は朝からもう夜ご飯のことで頭がいっぱい。いつもなら広場や部屋中走り回っているのに台所に立つお母さんを珠ちゃんとにこにこしながら眺めていた。

唐揚げ、マカロニサラダにちらし寿司。僕が好きな料理がテーブルいっぱいに並ぶ。後はお父さんが帰ってくるのを待つだけ。

遊んでる時に見つけちゃった押し入れに隠してあるプレゼントはなんだろう。内緒のケーキはどんなのだろう。

テレビで大好きな宇宙刑事のヒーローを見ながらも耳はずっと玄関の向こうの足音を探していた。しかしいつまで経っても玄関は開かない。

仕方なく三人で僕の四歳の誕生日会が始まった。お父さんはいなかったけど本当に楽しかった。

一緒にお風呂に入ってからお布団に入ってお話したり指相撲したりあっち向いてホイをしたり。

とにかくとっても楽しかった。

僕がウトウトし出した頃お父さんが帰ってきたんだと思う。すぐにお母さんとお父さんが大きな声で喧嘩をしているのが分かった。何かが投げられて僕のおもちゃに当たって大好きな音楽が流れる。お母さんが泣いているのも分かった。

珠ちゃんが一緒に布団にもぐって頭を撫でてくれる。襖の向こうから聞こえる音楽に合わせて心の中で大きな声で歌いながら怖くて泣き出しそうなのを我慢した。

あの日からお父さんは家に帰ってこなくなった。時々は荷物を取りに帰ってくるけど僕を見ても何もしゃべらずにすぐにまた出かけていく。それでもお母さんはしおちゃんのことがある。

僕らのご飯も作らなきゃいけない。一人ではできるはずもないことを一人でやっていた。くみちゃんの家に行くのもだめと言われた。

「洋ちゃんおいで」