第一部
最後の数日
その期間、もしものことを考えると頭が狂いそうになった。正気を保つことさえままならなかったが、凪人が夏休みに入りそんな状態ではいけないと思った。
何より、私が泣いたり不安な顔をしていたら凪人を不安にさせてしまうと思い、一樹は今は長期出張に行っているだけだと自分に言い聞かせ、なんとか正気を保ち過ごした。そして2日後、麻酔から目を覚まし、一樹が意識を取り戻したと連絡が入り、彼の第一声は「もうすぐ5歳になる息子がいるんです!」だったそうだ。
そして、心配していた盲目の症状は改善していたことを聞き、お義母さんと泣きながら抱き合い喜びを噛み締めた。
コロナ禍で病院が面会禁止の中、患者が重篤のためという理由から、私だけ特別に面会の許可が出た。
あの朝からわずか数日だったけれど、今でもICUで過ごした一樹との最後の数日間を、私は今でもハッキリと覚えているし、忘れることなどできない。
意識が戻った一樹に面会に行った初日、一樹が待つICUへと歩いている間、まず一番不安だったことは、もし記憶障害があったとしたら、私のことは覚えているのだろうか。思い出も覚えていなかったらどうしようという漠然とした不安があった。
私は一樹に会い、私の生年月日や結婚記念日、プロポーズの場所などすぐに質問し、普通に答えた一樹を見て泣きながら抱きしめた。
あの数日間、どうしてだろう。