第一部
最後の数日
私はその日、ようやく少し安心感が増してきていて、凪人が待つ自宅へと帰って、夕食を食べお風呂に入り、凪人と一緒にテレビを見ていた。
その時「容態が急変しました」という連絡が入った。私は、その言葉を聞いた瞬間いっきに血の気が引いた。
それと同時に、お義母さんを大声で呼び、急いで車に乗り込み病院へと急いだ。
運転する手も足も、声も震えていた。
心臓もずっとバクバク嫌な音を立てていた。
最悪の状況が、情景が頭に浮かんでは、とにかく怖くてたまらなかった。
ちょうど帰宅ラッシュの時間帯と重なり、思うように車が進まず私はとても焦っていたし、もどかしくて仕方がなかったが、逆にその時間があったおかげで、少しずつ冷静さを取り戻していけたようにも思う。
行く道中息子に「パパ死んじゃうの?」と聞かれ「そんなことあるわけないよ! パパなら大丈夫!」と答えた。息子に言ったその言葉は自分自身をも励ましたようだった。
一樹ならきっと大丈夫。私はそう信じる。
私は、何をそんなに恐れているのだろうとさえ思えた。
けれど、私を待っていたのは、残酷な現実だった。
医師から告げられたのは
「再出血を起こし、呼吸も苦しく弱くなってきていたので、まだお若いですし人工呼吸器をつけさせていただきました」
そして
「ですが、瞳孔が開き、上島さんの脳は再出血によりもう機能していません。腎臓のことや出血の箇所のことを考えると心臓は長くはもたないと思います」