常に、生きるか死ぬかの切羽詰まった時代からしたら、現代の混沌としながらも生ぬるい、一見、平和に見える世界について、どのように思われるのだろう。結迦はふと、そんなことを思うのだった。
大広間での夕食タイムは、ひとり参加者、ご夫婦、友人同士などのテーブルに分けられ、会席膳が用意されていた。食事中は旅行の話題で盛り上がり、外国の知らない話をたくさん聞けた結迦は、存分に楽しめたようである。
ホテルの眼前には琵琶湖があったのだが、夜となっては真っ暗なだけで散歩をする気にはなれず、温泉で疲れをほぐすと早々に横になる結迦だった。その日も布団の上で、結迦は昨晩と同じように、信長公にお願いをしていた。
「信長さま、今日、安土城址へ行ってまいりました。お天気にも恵まれて、山の上からの景色もよく見れましたよ。天守閣の上から、信長さまはどんなことを感じていらっしゃったのでしょう。ゆっくりと熟睡できたことは、あったのでしょうか。今、どちらにいらっしゃいますか。
また今宵も、私のわがままなお願いを叶えてくださいますか。またいらしてくださったら、私でも気づけるようなサインで教えてくださいね。よろしくお願いいたします」
そうつぶやくと、結迦はまた布団の中で丸まって、目を閉じるのだった。静かな、初冬の夜が深まっていく。外はかなり冷え込んでいたようである。
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