携帯電話の下四桁が二九二九で、それはお肉が大好きだからと伝えると面白い人だと吹き出して笑っている。
まさか電話番号を笑われると思っていなかったしどうにも気まずい。私はずっと下を向いて畳から飛び出した、い草を、無造作に撫でやり過ごした。
照史は笑ってしまった事を謝罪して食事に誘った。私さえよければ、焼肉をご馳走してくれると話し、黙って頷いたのを覚えている。嬉しさを表に出すのも気恥ずかしくて、照れ隠しに天井を仰いだ。
照史は下を向いている。二人とも恋愛弱者の様だ。彼は次の言葉を見つけると、平常心を保つように真顔で伯母の状況を聞いてきた。
最近やっと笑顔が見られる様になり、外出もするようになったと伝えると、自分は結婚していないが、愛する人を失う辛さは想像できると話し気遣わしげだ。
私も夫婦関係が良好だった為、それはさぞかし心痛いだろうと思っていた。私が支えになり、その優しさはしっかり伝わっていると、宥めてくれた。その言葉は心に響き、自分で恩返しが出来ていると思えてありがたかった。
本当に育ててくれて感謝しかなかったし二人を愛している。照史の言葉はなんて心地よいのだろう。不思議なくらい私の心を読んでいる。にもかかわらず、恥ずかしさも抵抗も感じない。
それだけ照史を好きになっていた。