「先述の通り殺害をすれば代償が伴う。そもそもあの蔵に閉じ込めて放置していれば餓死すると考えていました。しかしこの道を通るたびに様子を見るとまだ生きていた。つまり誰かが久原真波に食糧を提供し生命を維持していたということです」

「あなたは久原さんに食事を与えなかったのですね。久原さんに食事の提供をしていたのは山本雫ですか? でもあの高い場所にある通気口からどうやって食事を渡したのでしょうか」

深瀬は鋭い眼光で声を発すると冷たい雨が針のように鋭い冷たさを感じさせていた。

「傘です。三ヶ月前の九月三十日、久原真波は自身が持っていた赤い傘と、電波が通じなくなった自身の携帯電話を山本雫に渡していました。それを使って食糧を渡していたと知ったのは数日前のことです」

「ですが普通ならば警察に通報することが先決ではありませんか。親に相談することもできた。携帯も持っているわけですし、横川さんからも着信があったはずです。なぜ山本雫は食事を提供するだけで、それをしなかったのでしょうか」

「山本雫に危険が及ぶことを極度に恐れていたこともあり、久原真波がそうさせなかったからです。ですが昨日、今日のようなこの大雨の中、私は山本雫の存在を知り口封じのために殺害を計画しました。

この雨の日を選んだことも、顔を潰すことも、この藤山の土の性質を利用したのも全ては証拠隠滅のためです。数時間をかけてスコップで穴を掘り、蔵のそばで少女が来るのを待ち伏せた。だが状況が変わってしまった。久原真波は私の背後に忍びより持っていた傘で私を殴打した」

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次回更新は2月27日(木)、21時の予定です。

 

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