約束のアンブレラ

降り頻る雨は増すばかりだ。全員の足元は水たまりで溢れ、一人一人の声を聞き取ることもやっとの状態だ。空には雷が鳴り響き、ごろごろと轟いていた。

「揉み合ううちに久原さんは死亡したということですか。どうやって久原真波は蔵から出たのですか? 確かに入り口の南京錠は人為的に壊されていました。工具や何かを自宅から持ち出した山本雫がやったというのか」

逼迫した状況の中で深瀬が言葉を投げた。

「あの時は、そんなこと考える余地はありませんでしたが、今思い返してみればあの傘を通じて、久原真波と山本雫は繋がっていた。脱出の計画を立てていたのか、何気ない話をしていたのか。今となってそれを知るのは山本雫だけでしょうが」

雨の勢いが少しずつ弱まるのがわかった。横川と深瀬は全身ずぶ濡れのまま空を仰いだ。鳥谷は三好に手錠をかけると重たい声を上げた。敵愾心をむき出した深瀬も目線を向ける。

「三好和希、お前を静岡県警捜査一課所属の清水巡査における殺人未遂罪および、久原真波の殺人と死体遺棄罪で現行犯逮捕する」

俯いたままの三好は捜査員に連行されパトカーに乗せられる。降り続いていた雨粒が空気中で踊るようにきらめき、濡れた地面はその輝きを吸い込むようだ。その姿を呆然と見つめながら横川が崩れ落ちる。栗林はその肩を支えるようにした。

パトカーを見送るなり、鳥谷と深瀬はビニール傘を置いてその場に膝をついて頭を下げた。横川さん、申し訳ない、申し訳ありません。そう深瀬は顔面を崩しながら言葉をこぼした。膝に泥をつけながら二人は声を揃える。

犠牲者を出しただけでなく、その犯人が事もあろうか共に捜査をしていた警察官だった。どう言い訳しても足りないことはわかっていた。しかし、横川にこのことだけは伝えなければならなかった。