約束のアンブレラ
八
三好は少しの間俯くと手を震わせながら、小さく言った。誰でもよかった。そう言った。その言葉に深瀬は三好の胸倉を掴んだ。ビニール傘を放り投げ、三好と深瀬は雨に打たれた。
「お前がやったのか。清水さんの事故も、久原さんの殺害も。お前、それでも人間か」
「三好さん、嘘だよな。あんたずっと、真波を見つけてくれようとしてくれた人ですよね。あなた警察官ですよね」
横川も持っていた傘を放り投げると三好に詰め寄った。三好は瞳孔が開いたままで、呼吸が荒かった。まるで何かを悲しむかのように雨の勢いは増している。地面には雫の打ち付ける音が響いた。
「鳥谷さん、なぜ僕が犯人だと」
「最初の違和感は現場検証の時に感じた匂いだ。久原真波さんの遺体から、そしてあの蔵にも微かに香っていた。お前の大好きなコーヒーの香りだ」
「ありえない。この雨で匂いなんてかき消されるはずだ」
鳥谷はその場で動かずに三好のことを見つめ、その鋭い眼光に三好の唇は震えている。雨が鉄板を叩くような音で響き渡り、他の全ての音を掻き消していた。異常なまでに研ぎ澄まされた鳥谷の感覚を誤魔化すことはできなかったと身震いしている様子だ。
「あの子さえいなければ」
「第一発見者の赤いコートの少女のことだな。この静岡県藤市の藤山で、昨日の十二月三十日に何が起きた?」
鳥谷は冷静なまま訊いた。三好は濡れた髪を書き上げて顔を擦ると、重たい口を開いた。