「三ヶ月前の九月三十日。あの時、私の姿を見たのは久原真波だけじゃなかった。もう一人。近くに住む山本雫という少女が目撃していた。久原真波はその少女を匿うため、わざと私の目に触れた。その後、私は久原真波を眠らせ近くの蔵に連れて行った」

「なぜ殺さなかった」

鳥谷は冷たい表情のまま訊いた。

「私は警察官だ。自らが手をくだす殺人がどれほど非生産的なものか知っている。その少女が時折、この藤山の蔵を訪れ、小部屋のそばに立っていたと後から知りました。久原真波と何かを話していたのか、ただそこにいたのか」

「つまり久原真波さんは邂逅したその少女を守るために、お前に命を晒して自らが監禁されたということか。なぜ見ず知らずの少女、山本雫にそこまでしたのか」

深瀬は訊いた。三好は雨に打たれながら言葉を紡いでいく。

「久原真波と山本雫は友達だったからです。いえそれ以上の特別な関係だったのかもしれない。栗林さん、僕はあの絵を紫藤美術大学で見た時に驚きましたよ。赤いコートを着た少女、そして名前まで。二人の出会いは運命だったと。

そして久原さんもそう感じたはずです。幼少期の自分と重ねて放っておくことなどできない。自然と心を通わせた。だからこそ守る必要があったと」

「ではなぜ殺す必要があった?」

三好はかけていた眼鏡を外すと虚ろな目をした。