「気がかりだ。なぜ帝国不動産がそんな老舗で赤字の遊園地の経営を継続するのか。そして回転率の悪い、今回の巨大観覧車の建設予定だ。何か思惑を感じてならないが、この帝国不動産は久原真波の恋人である横川淳一の勤務先でもある。過去にはパワハラや過重労働で社員の自殺もあったいわくつきの企業だ。横川淳一もその影響を受けている可能性があるからな」

「横川淳一といえば一度、十月頃でしたか静岡県警で怒鳴り散らしていましたよね。鳥谷さんが間に入らなければ公務執行妨害で現行犯逮捕されていましたよ」

「彼は必死だった。あの日の横川淳一の表情は今も忘れられない。目の下は真っ黒なクマで頬はこけ、髪はボサボサで。まともな精神状態ではなかった。私は彼らとの約束を果たすためにもこの事件を解決しなければならない」

「彼らって、誰ですか?」

深瀬が不思議そうに聞き返した。鳥谷はごほごほと咳き込みながら話を続ける。

「一人は横川淳一、もう一人は第一発見者の少女だよ」

「まだ言っているのですか。そんな少女いませんって。藤山の周囲には防犯カメラはなく、捜査員が周囲に聞き込みしてもこの年末に、そして豪雨の中、女の子が一人でいるなんて情報はないのですよ」

「少女はいた。友達と来ていた可能性もあるが謎が多いままだ」

「鳥谷さん、何かの間違いじゃないですか」

鳥谷は携帯を開くと発信履歴にあった電話番号を見つめた。

【前回の記事を読む】雄大な藤山の前に佇む赤いコートを着た少女の絵――ぽつんと寂しそうに立っているように感じた

次回更新は2月21日(金)、21時の予定です。

 

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