約束のアンブレラ

鳥谷はその番号へと何度も電話をかけているが電話は繋がらなかった。

「この静岡県内で小学三年生ほどの女の子の行方不明届がないかも調べてくれ。歩いてきたとすれば付近に住んでいる可能性もあるだろう」

「ええ、すでに捜査員が聞き込みを実施していますし、データベースとも照合しましたが該当はありませんでした。過去にも失踪事件があったこの藤山です。何か錯覚を起こしたのではないのですか」

その時、鳥谷が持つ携帯に着信が鳴った。少女からかと思いつつ電話を取った。

「お疲れ様です。一課の三好和希です。いま少しよろしいでしょうか」

「ああ、何かわかったか」

「はい、木嶋さんの指示のもとで婚約者の横川淳一に話を聞きました。そこで久原真波の母校である紫藤美術大学の教授、栗林智久が当時の久原さんに好意があったのではないかという話で会いに行ってきました。結論、栗林にその好意はなかったと思うのですが、久原真波の絵の才能に惚れ込んでいたようです」

携帯をスピーカーにすると鳥谷と深瀬は耳を済ませている。

「久原は卒業制作の作品をきっかけにプロへの転向などあらゆる機会を提供されたにもかかわらず、その申し出を断固として拒否し沈黙していました。真意はわかりませんが、その卒業制作で気になる点があります。その卒業制作には一つ条件がありました。

それは大学のシンボルツリーでもある紫藤の木を描くことです。しかし久原が描いたのは、その藤山でした。写真を撮りましたのでお送りします。私にはこれが偶然だとは思えません」