鳥谷はくんくんと鼻を動かすと、携帯を持ち直して送られてきた作品に目を凝らした。雨の降るなか、雄大な藤山と、赤いコートを着た少女が立っている絵だった。深瀬は全身に鳥肌を立てる。
「鳥谷さん、これって第一発見者の少女ですか。赤いコートを着て小学三年生くらいの」
「シルエットだけじゃない、今朝のこの現場の状況とほぼ一致している。卒業制作ということは十三年前のものだということか」
「はい、この作品が描かれたのは今から十三年前です」
深瀬も目を丸くして動揺しているように見えた。うねった髪は乾燥により、さらにうねりを増していた。鳥谷も口髭を触るような仕草をする。
「三好、最後に一つ聞いてもいいか。その栗林智久が久原真波に好意を持っていると横川淳一は誰に聞いたか言っていたか。私の知る限り、横川と紫藤美術大学に接点はない。久原真波は学生時代のことを横川に多く語らなかったと記憶している。どこからその情報を手に入れたのか」
「いえ、それについて本人は言及しませんでした。しかし誰かがそう告げ口したのかと思います。不安と混乱で判断力の鈍った横川さんに対して」
「三好、お願いしたいことがあるのだが。明日の大晦日、朝九時。横川淳一と栗林智久をこの事件現場に連れてきてもらえるか」
「ええ、それは構いませんが、なぜ明日なのですか。早い方がいいのではありませんか」
頼んだぞ、そういうと鳥谷は電話をぶつりと切った。