約束のアンブレラ

鳥谷は思考を巡らせる。犯人は藤山で何をしようとしていたのか。他にも遺体があるのかもしれない。この藤山では過去にも不可解な失踪事件があったはずだ。鳥谷は周囲を懐中電灯で照らしながら見渡した。

「この件は、捜査本部にも連絡を入れておきますね。木嶋さん、厄介なので」

「ああ」

そういうと少し咳き込んで、持っていた新聞で埃を抑えようと口元に添えた。鳥谷は上部にある通気口を見上げると寝袋を勢いよく剥いだ。連絡を終えた深瀬が声をかける。

「鳥谷さん、また新聞ですか。相変わらずルーティーンですね」

深瀬が鳥谷の持っている湿った新聞に目線を向けた。

「深瀬、お前も新聞は読め。社会の情報を知ることは刑事にとっても重要なことだ」と呆れたような表情で鳥谷は言った。

「お言葉ですが、鳥谷さん。新聞はメディア操作の代表的な例ですよ。資本や政治、さまざまな思惑で情報コントロールされていて、偏った記事しかありません。これからはデジタルな時代が」

「だからこそ読むべきだ。裏を返せば全ての情報の奥には需要と供給がある。記事になっているってことは人々にとって関心があるってことだろう。それに新聞にあるニュースや記事をただ読むわけじゃない、俺は人の言葉ってもんを信じたいのさ」

「言葉ですか?」

深瀬は不思議そうに訊いた。

「私は言葉には現実を変える力があると思っている。深瀬、ここだけの秘密だが、私は事件の現場に臨場すると、被害者への弔いの後で心に唱えることがある。この事件が解決しますようにと」