約束のアンブレラ

三好は美術館に行くようなタイプでもないのか、そわそわしながら周りを見渡した。冷え切った廊下には二人の履いたスリッパを擦る音だけが響いている。

「これが、久原真波さんが十三年前に描いた卒業制作『藤山』です」

一つの絵の前に立ち止まると、三好は息を呑んだ。A3ほどのサイズの小さな絵だったが、今にも飛び出しそうな迫力と躍動感を感じる。繊細なタッチだが自然の雄大さと儚さ、その対照的な二つを描き切っている生命を奮うような作品だということは、素人の三好にもはっきりわかった。

「どうですか」

しばらくの間、眼鏡を外した三好が見つめていると栗林が声をかけてきた。

「すみません、つい見入ってしまって」と、まるで現実に引き戻されたかのような三好はびくりと体を動かした。

「私もそうでした。初めてこの作品を見た時、何が描かれているのか、そんなことどうでもよくなりましてね。この藤山がもたらす魅力をここまで引き出せるものがあるでしょうか。

この世の中に永遠というものは数え切れるほどしかありませんが、その一つが芸術ですよ。この作品の感性は海を越えるだけではなく、時間も超えていくでしょう。この先何十年、何百年と受け継がれるもの、その力が絵にはあると思うのですよ。でもだからこそ刑事さん、私と約束してくれませんかね」

「約束ですか」

三好が繰り返すように言った。