時刻は十三時を回った頃だ。雨は上がり、湿った空気だけがあたりには充満していた。発見現場から歩いて数分のところにその建物はある。

黒ずんだ木材でできた外壁に、苔がびっしりと生え、長い年月にわたり雨風にさらされている。屋根には瓦が乗っているものの、いくつか欠けており、内部に雨が漏れている形跡がある。

蔵の扉には錆びついた鉄の鎖と大きな南京錠がかかっているが、最近無理やり壊されたような跡が見られる。

蔵の木材や扉には古い時代の職人が彫り込んだと思われる家紋や、不思議な模様も見える。それらは近づくとわずかに削られているようで、不気味な印象を与えていた。

持っていた懐中電灯をつけると、鳥谷と深瀬は重たい扉を開いて中を覗き込んだ。重く湿った空気が流れ込み、長い間閉ざされていたのか、蔵の中には蜘蛛の巣が張り巡らされ、壁に沿って古い酒樽や箱が積み重なっている。

「なんですか、ここは。不気味ですね」

深瀬はおどおどしながら声を発した。意外と暗いところは得意ではないようである。中央には小さな祭壇のようなものがある。そこには神聖な山としての藤山に祈りを捧げた形跡があるが、現在は荒らされ、供え物の壷や皿が割れていた。

奥にもう一つ小部屋があることに気がつき、鳥谷はそこへと向かっていった。上部に小さな通気口があるだけの小部屋には寝袋と大きな戸棚と押し入れがあった。

「ここは仮眠室のようなものだったのでしょうか」

「いや、最近までここに誰かがいたことは間違いなさそうだ。鑑識に伝えて毛髪など手がかりになるものがないか調べさせてくれ」

それを聞くなり深瀬は無線で捜査員に指示を出した。

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次回更新は2月20日(木)、21時の予定です。

 

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