「久原さんを見つけてください。そして私はもう一度聞いてみたい。なぜこの作品を描き、どういう想いを込めたのか。プロになれとはいいません。他の作品を描けとはいいません。ただ知りたい。私はこの命が尽きるまでに知りたいのですよ」
そう言うと栗林は白髪の髪をうねらせながら、しゃがれた声を震わせた。その声は廊下に響き渡っている。眼鏡を拭くような仕草をして三好は頷くと、重たい口を開いた。
「栗林さん、ところでこの絵『藤山』に描かれている女性は久原さんなのでしょうか」
そういって三好は、目の前の絵を指差した。
「わかりませんね。実在する誰かなのか、想像されたものなのか。この絵に描かれた赤いコートを着た少女が誰なのかはわかりません」
その絵には雄大な藤山の前に佇む、赤いコートを着た少女が描かれていた。なぜだか、ぽつんと寂しそうに立っているように感じた。
「この作品を見たことがある人はどのくらいいるのでしょうか」
「かなりの数がいるのではないでしょうか、全国的というわけではないでしょうが。当時はメディア露出や貸し出しもしましたので、結構な数の人の目には触れているかもしれません。しかし時々ね、この絵を眺めているとなんだか寂しくもなるのですよ」
タートルネックを整えるようにして栗林はぽつりと言葉を吐き出した。