第一走者 ピッポ(ビーグル犬)
我が家に犬がやってきた
物心ついた頃から、私の周りには犬と猫がいた。
造り酒屋には原料米を食べるネズミ退治のために、常に猫が飼われていた。三毛猫、トラ猫、ぶち猫。いろいろな和猫がいたが、中にはたくさんネズミを捕獲したつわものもいた。その猫は、迷い込んできたところを母に拾われたメスの三毛猫だった。
人間への恩返しなのか、本能のおもむくままか、捕獲したネズミを必ず人間に見せにくる習性があり、母が目覚めると枕元に息の根を止められたネズミが複数転がっていることも頻繁にあった(ネズミ嫌いの人にとっては、悲鳴を上げたくなる場面だろう)。
一人娘の母のところに婿養子にきた父は、犬が大好きだった。そこで、犬も飼うようになった。
いろいろな犬種が飼われてきた。柴犬、雑種、大型犬のコリーもいたし小型のマルチーズもいた。「お手」や「待て」など芸が上手な犬、優秀な番犬、愛嬌のある犬、上高地に捨てられてもけなげに帰ってきた犬もいた。
結婚し、約四年後に都会のマンション住まいから田舎の戸建ての家に移り住むようになると、私の長年の夢である「自分の犬」を飼うことが実現した。
そのとき飼ったのがビーグル。ピーナッツのスヌーピーが大人気であったし、たまたまドッグセンターにいたビーグル犬と目が合ってしまったのが、運のつき。
大きく垂れた耳が何とも言えずかわいらしく、子犬のときはまるで三頭身のようで、歩くぬいぐるみのようだった。黒、白、茶の三色がバランスよく配色され、尻尾の先は真っ白。これは気分よく歩くときの目印にもなって、植え込みがあっても尻尾の先だけは遠くからでもよく見えた。
昭和五十九年(一九八四年)五月、駅前の公園通りに、カフェテリアを開店した。
近くに大手の複合商業施設が開店したばかりで、街は若者で大いににぎわっていた。カフェテリアでは流行りのミュージックビデオを流し、昼から午後十一時まで営業する。夜はお酒も提供する。カフェバーなどとも呼ばれて、大いに繁盛した。