「お前が生涯に凌辱(りょうじょく)した女性は三十三人。そのうちの約半数が、その後の人生を自らの手で断っているのだ!」

ガイは非情なまでの無表情で男の男たる部分を一気に切り落とした。

男は白目を剥いて口角から泡を吹いた。

「お前の命は、出血具合から見てあと十五分というところだ。死が訪れるまで、楽しかった人生を振り返るんだな」

そう言い終わったガイは、急に体から力が抜けたように、よろよろと二、三歩後退すると尻餅をついた。

「……僕もあの男と変わらぬ、血で穢(けが)れた、ただの人殺しだ!」一語一語、噛みしめるように、ガイは言った。

「そのようなことはございません、ガイさま!」一部始終を見届けた冷静な爺やがガイを支えた。「ガイさまは、鬼神におなりあそばしたのです!」

「鬼神、か……」

すっかり生気をなくしたガイの、返り血で汚れた制服を、爺やがてきぱきと着替えさせた。

ラン、ラン、ランララ、ラン♪

あと少しで着替えが終わろうというとき、

「ガイお兄ちゃまあ、どぉこぉ?」

という、七歳になったばかりのエリスの声がした。

「しまった! 爺、頼む、エリスを遠ざけてくれ!」

「はっ! 警備巡査! 絶対にエリスさまを中に入れるでないぞ!」しかし、扉の向こうにいるはずの巡査からの返事はない。

「おのれ、あの若僧巡査め! 恐ろしくなって逃げおったな!」爺やはあせった。だが、すでに遅く、お気に入りの乗馬服を着て、帽子には二つの「レイギッガアの翼」の飾りをつけ、スケッチブックを抱えたエリスが、入ってきてしまった。

「きゃっ!」

小さな悲鳴を上げて、エリスは、ふらーっと前に倒れてきた。爺やが慌てて飛び出し、エリスの小さな体を抱きとめた。

「……お兄ちゃま……ガイお兄ちゃま……どこ?」

医務室に運ばれたエリスは、一時間ほど脂汗をかきながらうなされていた。熱が急激に高くなった。目にしたものに対するショックが大き過ぎたのだった。

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