四
「お前にとどめは必要ない。お前は自分が踏みにじってきた多くの人々の恨みを悟るまで、延々と苦痛を感じながら死んでゆくのだ」
片手にレーザーフルーレを握ったガイの冷淡な声が、ひんやりとしたレイギッガア城地下の土蔵に響いた。
「けっ、優しそうな顔(つら)しやがって、やるこたぁ……はあ、はあ、俺以上……」
両手を鎖で縛られ、天井から全裸で吊るされている若い男の全身から、細い筋になった血が流れてくる。
「……そ、そういや、王子様は医者だったな。どこを突けば痛みを感じるか知っていなさる……けっ!」
男が、最初に「殺せ!」と口にしてから、そろそろ一時間になろうとしている。
初めは「殺せ」の声も挑戦的で威勢が良かったが、今は違う。人を殺傷し、物を力ずくで奪うために鍛え上げた肉体。
その何か所かを、レーザーフルーレで浅く突かれた。痛みはそれほど強くないが、たらたらと細く流れつづける血が止まらないのが男にとっては不気味だった。
「男らしく、さっさと首を刎(は)ねりゃいいんだ!」
この悪夢のような世界を部屋の隅で冷徹な目で見ている初老の巡査がいた。見事な福耳が、この場にそぐわぬ感じがする。彼は表向きはこの処罰の立会人であり、その正体はガイとエリスの爺やだった。
「て、てめえは、鬼だ。俺も相当なワルだが、てめえほど……残虐なこたぁ……」言い終わらないうちに、レーザーフルーレが男の左目を潰した。男は失禁した。
「お前はタバコ屋の老女の左目を抉(えぐ)り取った。気の毒に、もうすぐ百歳を迎える老女が、天国に召される日を待ちながら静かにつましく生きてきたのに突然の災難だ。老女は精神的なショックで右目の視力も失ってしまったのだぞ」男の足元には、いつの間にか大きな血だまりが広がっている。
ガイは、レーザーフルーレを男の下半身に向けた。
「わあ! や、やめろぉ! さっさと殺せ! 殺してくれぇ!」男の声は、いまや哀願に近かった。