そう思った途端(とたん)、姉と住職が急に惨(みじ)めに感じ、気(き)の毒(どく)に思った。そうであるなら一刻(いっこく)も早くお金はないことを説明(せつめい)してあげたいが、しかしいきなり、「金はない!!」、と言うのもヘンだ。それではまるで西部劇(せいぶげき)のホールドアップだ。
そんなことを考えながら、私はとても複雑(ふくざつ)な心境(しんきょう)で勧められるがまま、黒の革の立派(りっぱ)なソファに座(すわ)った。私と息子はそこで初めて住職に挨拶(あいさつ)をした。
だが、その直後(ちょくご)だ。突然(とつぜん)、すくっと立ち上がった住職は、手招(てまね)きしながら私に「ちょっとこっちに来てやァ」と言い、ソファから一番離(はな)れた窓(まど)ぎわに私を連れて行った。
「あんたァ、子宮筋腫(しきゅうきんしゅ)やろォ。大丈夫(だいじょうぶ)やでェ、すぐに治(なお)るでェ」。
住職が小声(こごえ)でそう言った。抜(ぬ)けた、腰(こし)が。
住職は私にだけ聞こえるように小さな声でそう言うと、何事もなかったかのように背筋(せすじ)をピンと伸(の)ばし、機敏(きびん)な動きでさっさとソファに戻った。私はというと、抜けた腰のまま、四~五歩遅れて何とかソファまでたどり着いた。
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