姉の運転する車から降り、都会特有(とかいとくゆう)の洒落(しゃれ)たビルを目の前にして、初めて見る違和感(いわかん)だらけの寺に入って二~三分の僅かな間に、不倫(ふりん)エセ住職だとほぼほぼ決め付けようとしていた私は、とても拍子抜(ひょうしぬ)けしたものの、多少だが確かに安堵(あんど)の気持ちを覚えた。
やや神経質(しんけいしつ)ぎみに見える住職は、思いの外真面目(まじめ)そうで、むしろ清潔感(せいけつかん)すら感じさせる。年齢(ねんれい)は姉より少し上の五十歳くらいで、比較的(ひかくてき)端正(たんせい)な顔立ちと均整(きんせい)の取れた体型(たいけい)をしており、紺濃(のうこん)の作務衣(さむえ)と坊主頭(ぼうずあたま)のよく似合う普通の住職だった。
そういえば、顔の造作(ぞうさく)などには昔からほとんど興味のない私と違い、姉は昔からイケメン好みだったことを思い出し、納得(なっとく)した。
振(ふ)り向いた住職がまさかの爽(さわ)やか系(けい)不倫住職だった為、これまでの私の疑心暗鬼(ぎしんあんき)が半分ほどに減(へ)った。
ところが、不意(ふい)に私は次のようなことを思った。
それは、私達夫婦の脱サラがある程度成功したことを実家かどこかで耳にし、大金持ちになったと勘違(かんちが)いした姉が、住職の不思議な霊力を謳(うた)い文句(もんく)に、陰(かげ)ながら脱サラを成功(せいこう)に導(みちび)いたのは、ほかならぬ住職だと主張(しゅちょう)し、取らぬ狸(たぬき)の皮算用(かわざんよう)をして私を騙(だま)してお金を巻(ま)き上げようとしているのではないかということだった。
まずは姉がそう企(くわだ)て、それを住職に持ち掛け、それで私は今ここにいるのかもしれない。もし私のこのヨミが当たっていたとしたら、何はともあれやめさせなければならない、とそう思った。