「確かにいた。雫という名の小学三年生くらいの少女だ。携帯の発信履歴も確認した。急いで県警に応援を要請してくれ。この大雨だ、こんな場所では命の危険もある」

深瀬は聞くなり静岡県警本部に連絡をする。大雨の勢いは無線の音を掻き消すほどの勢いだ。ごおごおと風が吹き荒れている。自然が猛威を振るう中で深瀬は何か嫌な予感を察知した。

「鳥谷さん、一旦車に入ってください。これ以上、この雨に打たれたら我々も危険です。足元もぬかるんで崩れやすいですし」

鳥谷は、はあはあと息を荒げながらも周りを見渡した。珍しく冷静ではないような状態だ。目を凝らしながら少女の行方を必死に探している。薄暗い空はゴロゴロと雷の音を立てている。記録的な猛雨であることは違いない。深瀬が抵抗する鳥谷を無理やり車内へと押し込んだ。

「はあはあ、深瀬。埋まっているのは、おそらく例の彼女だ」

息を整えながら鳥谷が口を開いた。

「間違いないのですか」

「お前なら匂うだろう? この獰猛な死の匂いだ」

深瀬は顔を擦ると静かに頷いた。

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次回更新は2月11日(火)、21時の予定です。

 

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