時間の経過がとても長く感じたが、サイレンとともに一台のパトカーが乗りつける。飛び出すように出てきた一人の男がビニール傘を鳥谷に向けると声を発した。

「鳥谷さん、大丈夫ですか。傘も差さずにどうしたのですか」

快活そうなもう一人の刑事が鳥谷に歩み寄った。寝癖のようにも見えるが、うねった髪が特徴的な風貌だ。

「遅いぞ、深瀬。また寝坊か? お前は何時間寝るつもりだ」

「すみません。でも睡眠は大事ですから。自律神経には気を使っているもので。鳥谷さんこそ寝た方がいいですよ」

「くだらない話はいい、そこの赤いコートを着た少女をすぐに保護してくれ。事件の第一発見者だ。少女の話では友達といたようだ。それと前方に成人の女性が倒れている。生死を確認する必要があるがこの雨で前に進めない。」

雨風の騒音が酷く、互いの言葉を聞き取ることも困難だった。

「人ですか? 三人ってことですね。この大雨の状況でよく見えますね。もう助かるかどうか」

「深瀬、勝手に物事を決めつけるな」

くるりと深瀬は振り返るが、目を凝らしても少女の姿はなかった。こんなところに少女がいるわけがないと深瀬ははなから半信半疑の様子だ。やはり視界は雨でぼやけてはいるものの、人らしきものはどこにもなかった。

「鳥谷さん、ここには我々以外は誰もいません。この年末に、藤山で死神でも目にしたのかもしれませんよ」

眉間に皺を寄せた鳥谷も辺りに目を凝らすが少女の姿はない。鳥谷は木の脇に畳まれていた自身のビニール傘と撥水性のあるコートを手に取った。