第三章 おがさわら体験
一 「躑躅(つつじ)山」と「千尋(ちひろ)岩」
さて、ここからです。この地点を中心として、父島の南面となるのですが東西約二kmに亘って断崖絶壁が続いています。本日の目的進路は、西の端部まで行くことです。その方向を眺めて観ると、かなりの労力と時間が要求されそうです。
十数年前から、数回トライしてきていることもあって、迷うことは無いと思うのですが、苦労することはみえています。また行くのかという気分になるのですが、戸田さんに「さあ、行こうか!」という気合の声掛けを、自分への鼓舞と共に行うのでした。
暫く振りとなる西端部「千尋岩」への歩きです。大村集落の居酒屋の壁に掲げられていた千尋岩の断崖絶壁の写真を見上げて、「小笠原にこうした場所があるのか!」と憧れたもので、是非、自分もそうした場所に行ってみたいし、そのアングルから眺めて観たいと思った頃を思い出します。
しかし、ここも十数年前と違って、踏み跡らしきものがはっきりしてきています。ハートロックまでは、ガイドによって比較的入って来れるにしても、ここまではと思っていましたが、ご多分に漏れず結構人が入っていることが窺い知れます。そうした踏み跡を辿ったり、外れたりしながら懐かしいトレールを踏みしめていきます。
地帯標の手前の斜面では、十数年前まではそれほどの亀裂が進んでいなかったと記憶していますが、改めて今回覗き込むと、数メートルはあろうかと思われる亀裂で深さ・幅もあって雨などの侵入によって広がりつつあるようです。近い内に何かの弾みで、大規模な崩落となることが想定されます。断崖絶壁の内側の歩く所は十数年前と同じで、自然とそうした場所をルートとして選び進んで行きます。