第一章 世界自然遺産の島「おがさわら」

一 東京の南海上一〇〇〇キロの島々

小笠原諸島は、日本本土から南へ約一〇〇〇~二〇〇〇㎞の太平洋上に点在する三十余の島々からなり、北から聟島(むこじま)列島、父島列島、母島列島、火山(硫黄)列島、そして、沖ノ鳥島、南鳥島からなっています。我が国の排他的経済水域は、こうした島々だけで日本全体の約三分の一を占めるに至っており、小笠原諸島の存在は海洋資源・自然環境等の面から極めて重要な役割を担っています。

そして、これらの島々は、大陸から隔絶された海洋上の孤島でもあることから、独特の亜熱帯植生、サンゴ礁、変化に富んだ島しょ景観など風光の美に恵まれています。この内、人の住む父島は、東京より南方約一〇〇〇kmに位置し、東京・竹芝桟橋から平成二八(二〇一六)年七月二日就航の三代目となる「おがさわら丸」一万一〇三五トンで、約二四時間を要します。

カメの形に似た父島の面積は、千代田区の約二倍の二三・四五km2程の小さな島です。また、母島は、父島から南へさらに五〇km、父島・二見港でおがさわら丸からの接続便である平成二八(二〇一六)年七月一日就航の三代目「ははじま丸」四五三トンに乗り換え、約二時間の船旅となります。

写真を拡大 父島・二見港と二見漁港(右)
写真を拡大 母島・沖港(手前、脇浜なぎさ公園)

そのははじま丸は、夕暮れ迫る頃、母島の沖港に到着します。母島の面積は、約一九・八八km2、周囲約五八kmの南北に細長い島で、そのほとんどが豊かな緑に覆われ、海岸線は一部を除き急峻な崖となっています。

これら島々の成り立ちの時期については、様々な説がありますが、その一つに、今からおよそ二六〇〇~六〇〇〇万年前に水深一〇〇〇メートル以上の深い海底で噴火した海底火山、また、マグマの噴出による世界的にも珍しい枕状溶岩が、その後の地殻変動により隆起して海上に現れ、繰り返される海蝕作用により、今日のような島姿や海岸線になった小島群であるといわれています。

一方で母島は、近年の調査から父島のように海底火山の後、地殻変動によって隆起した島ではなく、浅海・陸上で噴火した火山島としての成り立ちであったことが明らかになっています。また、現在も噴火を繰り返し拡張を続ける「西之島」、さらに、遥か南に「沖ノ鳥島」、東には「南鳥島」があります。

写真を拡大 北袋沢「常世の滝」
写真を拡大 父島・小港海岸「枕状溶岩」の断面

このように太古の昔から一度も大陸と陸続きになったことが無かったことから、貴重な固有の動・植物等の観察が可能な島となっています。そして、父島では降雨時に滝も発生するなど、余り有る変化に富んだ大自然の醍醐味を満喫出来る島となっているのです。