バースデーソングは歌えない。

6 焦燥 〜喜美子〜

《今日は、帰ってくるよね? 何時くらいになる? わかったら教えてね》

親指だけの言葉に返事は来ず、就業中、何度もスマホを確認しても既読にすらならなかった。以前は遅くても半日以内には返信があったのが、ここ数週間は一日経っても来ないことがあり、心配で通話ボタンを押しても不通だったので、いよいよいても立っても居られなくなり、歌舞伎町へと急いだ。

B13の出口から地上へ這い出て、2番街、セントラルロードを1番街まで突っ切る。左右の建物の看板は、赤、青、黄、緑、原色が、ひどく街を安っぽくしている。真っ黒な空に、破壊行動を忘れた怪獣の頭が浮かび上がっている。駅の方面に向かう人、自分と同じく離れていく人、流れは拮抗している。この街のどこかにいると信じて探し回った。掛ける言葉を反芻した。

(あれ〜久しぶりじゃん! いやいや、わざとらしすぎるか。探したんだよ!! どこ行ってたの? 連絡してよ!と、怒りをぶつけてみるか。……別に母親ではないからな、シンプルに涙すれば良いのだろうか)。

わかってはいる、美結には美結の人生があるってことを。わたしとの関係をもっと大事にしてほしい、と嫉妬はするが、しつこいから嫌われるのは避けたい。「正義」が欲しい。

トー横は相変わらず汚れていた。美結の姿はない。体はいつの間にか、あのバーの方向へ歩いていた。新宿の奥へ奥へと潜っていく。階段を下り、重たい扉を開けると、

アイアン製のドアベルが鳴った。その音に振り向く少女はいなかった。喜美子はバーカウンターまで直進し、見知らぬ青年に「すみません、白石さんは」と尋ねた