バースデーソングは歌えない。

1 朦朧 〜喜美子〜

新宿に少女の姿はなかった。

重たい体を引きずってマンションまで帰る。孤独に床に就き、起床して、出勤、毎日夜遅くまで労力を提供している。そのルーティンの日々に、ノイズがチリチリと音を立てる。

本来の目的以外の要素が多すぎやしないか。どうしてお前らと親睦を深め、付き合いをしなければならんのだ、と喜美子は毒づく。同期の連中は、入社してから今に至るまで恋愛世界を楽しんでいる。「新しく入った〇〇くん可愛いよね、守ってあげたくなっちゃう」二回り以上年下の男に対して抱く、母性の形をした恋心を恥ずかしげもなく公表している。

若者は相変わらずプライベートを優先する。入社二年目の社員が定時きっかりに退社しようと席を立てば、先輩社員が、これでしょ、と言って小指を立てる。はい、と素直に答える青年の笑顔を破り棄てたくなる。

三十代の女性社員には、上層部から育休の取得を勧められ、"お言葉"に甘えて一年以上出社していない者も複数名いる。二人目を出産し、休暇を連続取得する社員もいた。