これを発端に、是正できない角度で人生のリズムに狂いが生じた。

「不幸だ」

どうして、こんなにも不幸なんだ!?

究極、不幸の原因を出生時にまで遡れば、自分がこの世に生を受けたのは、生々しい行為があったからだ。その原因を神聖化しようものならば、喜美子はいくらでも人類をこき下ろせる自信があった。誰よりも深い闇を持つ自信があった。

昼間の電車内には、老夫婦、ベビーカー、母親、父親、野球少年、いろんな人々が乗っては降りて循環した。その様子を見ながら喜美子は、どこまで南に下っても、おおむね同じ光景を目にするのだろうなと思った。

乗り込んでくるベビーカーに押し込められた赤子を見て(大変な時代に生まれてしまったね)と憐れむ。ハンドルを握る手の持ち主を辿ると、母親はスペースのある車両を選んで乗車する常識人であるし、ストッパーをする足の動作もしっとりと丁寧だった。我が子には優しいまなざしを注いでいる。

にもかかわらずだ。こいつは、わざわざ旦那とセックスして子どもを作ったのだ。

男の介入がなく、自然に懐胎したのであれば宗教的奇跡であり、祝福することもできたかもしれない。だが、男とまぐわう選択を、この時代にした目の前の女は、自らのエゴで、子どもを誕生させてしまった。

      

【前回記事を読む】面倒臭えな。《今どこにいるの?》《何か辛いことでもあった?》《お返事ちょうだいね》大人のくせに。偽善者に心配されたくない。

次回更新は2月3日(月)、18時の予定です。

   

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