【前回の記事を読む】格安携帯で、別人として予約すればまた会える…ルール違反だと承知しながら、気持ちは抑えられず...
Chapter 2
スパイ大作戦
いよいよ予約日の土曜日が来た。真由子は渋谷駅を降りて僅か数分で着くパラダイスアロマの部屋が入ったマンションに到着した。
約束の12時ちょうど、マンションのチャイムを恐る恐る鳴らす。中から反応はなかった。2度目のチャイムにも応答なし、もしかして何かでNG客の私だとバレたんだろうか?真由子は途端に不安になり、マンションの外に出て事務所に確認の電話を入れた。
真由子は心臓が飛び出んばかりの動機を感じていた。生まれて以来、聞いた事もないような激しい動悸だった。
本当に心臓がバクバクとするのを感じて、真由子は気がどうかなりそうになりながらも、予約も自動システムで、事務所の人とは関わった事もないのだから真由子の声を聞いても分かるはずはない、そう自分を奮い立たせて、事務所が電話に出るのを待った。
「はい、パラダイスアロマです」
「もしもし青木と申します。本日12時より2時間、渋谷店で花川流星セラピストに予約したものですが、先ほどマンションのチャイムを2度鳴らしましたけど、出てこられなかったのですが……」
「あっ、そうですか。すみません、只今連絡を取りますので、少々お待ちくださいませ」
数分後、「もしもし青木さん、すみません。花川と連絡が取れましたが、寝坊したらしく20分ほど遅刻するそうです。大変申し訳ございませんが、マンション近くのどこかでお待ち頂けますでしょうか?」
流星は何と寝坊して店にまだ来ていなかったのだ。心臓が飛び出んばかりの動悸を感じながらも真由子は、努めて冷静を装い、
「あ、分かりました。じゃあそこら辺を散歩でもして、20分後にまた部屋に伺います」渾身の演技力で冷静に明るく答えて電話を切った。
(ヤバいよ、ヤバい2ヶ月近く会えなかった流星くんにいよいよ会える。あー、でも怖い、会って気づいた瞬間、流星の表情が険しく嫌悪感に変わったらどうしよう?………)
真由子はそんな風に最悪の光景も予想したりしつつ、激しい動悸に胸が苦しくなりながらも、必死の思いでパラダイスアロマの部屋があるマンションに戻って来た。
真由子は手足がガクガクと震えて心臓が胸から飛び出してしまいそうな激しい動悸をずっと感じながら、マンションの階段を上った。
2階から3階への階段を曲がって小さな踊り場に立った瞬間、不意に301号室のドアが、ガチャっと開いた。
そしてその半開きのドアの間から流星が階段下の踊り場を覗きこむように身を乗り出していた。「あっ、青木さん、大変すみませんでした。遅れてしまって」