申し訳なさそうに謝罪する流星に、真由子は一瞬、身が縮まる思いがしたが、真由子だと悟られないように精一杯頭を下げて顔を見られないようにしながら答えた。

「あっ、はい大丈夫です」

しどろもどろになりながら、頭を下げて顔を隠すようにしながら階段を上り、部屋のドアまで辿り着いた。

「あっ、どうぞ」

顔を見られた瞬間に閉め出されたら終わりなので、真由子は顔を斜め下に向けたまま、身体をドアの内側に滑りこませた。取り敢えず流星と話す事は出来そうだ。

流星は、手前の部屋の扉を開けて真由子を奥の長いソファに案内した。真由子が座るとその前に流星は膝まずいて、

「青木様、今日は予約時間に大変遅れてしまって申し訳ございませんでした」とまた丁寧に頭を下げて謝罪してくれた。

いくら薄暗いとはいえ、こんな至近距離でまだ流星は、私に気付かないのだろうか?……真由子は恐る恐る流星に訊ねた。

「あっ、あの……私のこと青木さんだと本当に思っていますか?」2人の間に一瞬の静寂が流れた。

「いやー、さっきドアを開けて階段下見た瞬間に気付いたよ」

さっきまでの流星とは打って変わって、いつもの落ち着いた冷静な話し方に戻っていた。

(こ、怖い……この後何を言われるの? 私……)真由子が身がまえた、その時だった。

「やったあ!! 真由子ちゃん、俺めちゃくちゃ会いたかったよー!!」

流星が不意に立ち上がり、飛び跳ねるように真由子に抱きついてきた。

(えっ流星くん、会いたかったって言って私に抱きついてきた……えっ)

突然の流星の変化に真由子は、心底びっくりした。気持ちが付いていかない状態で流星に抱きつかれ放心状態に陥る。流星はまるで、お留守番を長くさせられた室内犬にやっと飼い主が戻ってきたような感じで、嬉しさ全開で真由子に飛びつき抱きしめた。真由子は、感動するほど嬉しかった。

(流星くん、私と再会してめちゃくちゃ喜んでる。この2ヶ月、会えない、連絡も一切取れない音信不通状態で地獄に堕ちて私は苦しんだけど、一瞬で世界は劇的に色つきの世界に変わった。迷ったけど、思い切って行動してここに来て良かった……)

真由子は、拒絶や事務所に報告される危険なリスクがある賭けに完全勝利した。そしてニコニコと笑顔が止まらない流星はこう言った。

「真由子ちゃんが、前掲示板のパラダイス店の俺の個人スレに、流星くんと私は恋人同士みたいな関係になってますって赤裸々に書いたのを事務所の人に見せたら、『このお客は、即刻NGに』って、LINEとインスタをオーナーの目の前でブロックさせられたんだよオレ……だからごめんね……真由子」

次回更新は7月7日(月)、18時の予定です。

 

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