我、水の底より

会は順調に進んだ。スズキ青年の番になりプールに飛び込んだ。堅実さだけが取り柄だった少年が、社会の無関心という壁に立ちはだかれ、性根のひねくれた大人になってしまい、最後は残念な最期を迎えるという気迫のこもった水死体ぶりだった。

友人の番になりプールに飛び込むと、英知をたたえはするが社会の理解が得られず、それでも必死に生活にしがみつくも、よこしまな思いを抱いた他者のために引きはがされて惨めな死に方をするかのような慚愧(ざんき)に堪えない演技であった。

オオカミ氏の番になり、彼もプールに飛び込んだ。じたばたと見るに堪えない生き意地の張りっぷりが、却って観衆の歓心をつかんだ。みな歓声を上げてオオカミ氏を見守った。

演技の途中、オオカミ氏は両手を張って大きく浮かび上がり、「助けて、足がつって泳げない!」と演技をした。観衆はみな大きく受けた。嘲笑を浴びせておもしろがった。オオカミ氏は長いあいだアップアップを続け、やがて水底に沈むと肺から大量の泡を流し、時間をかけてうつぶせになって浮上した。みな水を打ったように静まりかえり、次には大歓声となった。

スズキ青年は、負けた、と思った。

演技が終わってもオオカミ氏は顔を水面から離そうとしなかった。係員が出動すると、「この人、本当に死んでいる!」と叫んだ。演技のために死ぬだなんて、なんて一生懸命な人なんだ、と観衆は感動の渦に巻かれた。主催者の発表では、一位はオオカミ氏、二位はスズキ青年、三位は友人だった。