【前回の記事を読む】行方不明のコオロギを探すため地獄を訪れたスズキ青年。赤鬼に飲み込まれた先で待っていたのは…

コオロギ 捜査網

やがて血の池地獄に囲まれた剣ヶ峰までやってきた。

死者の悔恨を映す赤い鏡となった湖面は、亡者が呻吟をすると赤い滴りに波紋が生まれ、ときにさざ波となって彼岸まで届いた。

疳の虫は嬉しそうに語った。

「僕は表面張力が生まれるから血の池を渡れるんだ。君はかたわらの木の葉に乗ってすすめばいい」

そのとおりに進むと、剣ヶ峰の麓にたどり着いた。あとはかんたんだ。剣ヶ峰には無数の刀剣が突き刺さり、覆われている。亡者にとって剣を踏むことは大変な苦痛だが、しかし虫はその根元をくぐってゆけばいいのである。

体力はだいぶ消耗していたが、最後まで登り切ることができた。

頂上で疳の虫の言うには

「むかし罪人の救出のために御仏は異空間交通として蜘蛛の糸を下されたんだ。すべてをお見通しなのだから、そろそろやってくるはずだよ」。

空は闇のような黒雲が、赤鬼青鬼の恫喝(どうかつ)や亡者の泣き言とともにどよめくばかりだ。

しかし見上げてしばらく経つと、黒雲にわずかな隙間がうまれ、キラリと光るものが生じた。どうやら蜘蛛の糸が下されたようである。蜘蛛の糸はスルスルと押し下がり、やがて手元に届いた。

「さあ、急ごう」

疳の虫に促されてスズキ青年は伝っていった。緊急避難用の機関であるらしく、蜘蛛の糸は急速に天の元へ戻された。

「蜘蛛の糸もオートメーション化されたのか!」

「蜘蛛の糸が常態化をしてすべての死者亡者が利用するようになっては天国地獄のけじめがつかなくなるから、他言は無用だよ」