【前回の記事を読む】手元には、金色のコガネムシの死骸が残されていた――青年は、コガネムシに転生する夢をみた。しかし、目が覚めると…
コオロギ 捜査網
「人の手に、行方不明になったコオロギの捜索は難しい。だから汝もコオロギとなって探せば、虫どうし気心が触れ、発見にたどり着くやもしれない」
「それは名案。しかしコオロギになる方法はありや?」
外術師は商品棚から試験管に入った茶色の液体を持ち出した。
「きょう寝る前、この薬剤を飲むのだ。反魂の術の応用である。汝は幽魂となりやがてコオロギに憑依する。すると汝はコオロギの身になって天地を自由にさまよえるのだ。効き目は一晩である」
対価は共同で大店に請求することになった。
新月の夜も更け、物音一つしない街頭にスズキ青年は目覚めた。まさしくコオロギの身に変じているのだ。跳ね回ってあちこちに出歩くと、一匹のカマキリが場を張って粘っている。後ろから注意深く尋ねた。
「カマキリさん、私は非公式警察のものだが、ちょっとコオロギを探しているんだ。大店のお嬢さんがお飼いになっていて、人相は無個性らしい。心当たりはない?」
カマキリは物欲しそうにスズキ青年を一瞥したが、相手が対等に話しかけると応じてしまうのは虫の性質だ。
「自分はこの初春に生まれ、まだコオロギは食していない。風の噂で誰かがあの世へ通じた心得があるが、彼がそうかもしれない」
謝辞も早々に場を離れると、スズキ青年は広場へ出向いた。すると夜鴉がゴミ捨て場で餌を漁っている。
「自分は非公式警察のものだが、ゴミも公共の財産なので取得物横領の罪に問われるぞ」
夜鴉は鳥の中でもひときわ賢いが、罪罰を問われると身の潔癖を晴らそうとしどろもどろになった。
「いや、餌を漁るのは夜鴉の商売ですから! お巡りさん、その法律の策定に自分たちは参加したわけではないから無効です」
「まあいい。つかぬことを伺うが、この街であの世へ通じる道ってどこにある?」
ハッとしたのかホッとしたのか、夜鴉は知恵を出した。
「この街であの世に通じているのは、南の原っぱの真ん中に鎮守の木があって、そのウロの中です」