殉職である。オオカミ氏の死体はパイプいすに座った形でロープに縛られ、観衆の見える場所に飾られた。

二位となったスズキ青年はヒーロー・インタビューを受けた。

「今回、オオカミ氏には後塵を拝しましたが、箱船は一生をかけて富を得る者、生涯に誓って名誉を追う者とさまざまな生き方が許されます。オオカミ氏の名誉は永遠に語られ、その添え物として私の存在が認められますことは、これもまた名誉であります。

観衆のみなさんに、あんな死に方なんてしたくない、と悪罵されますことは却って皆の心の中に等しい感動をもたらし、この箱船の発展のよすがとなりますことを確信いたします」

みな沈黙して耳をかざし、やがてさわやかな声援を送った。二人は賞状を渡され、一位のための賞品は繰り下げられてスズキ青年の物となった。賞品はミネラル・ウオーターだった。

会が終了しロッカー室で着替えていると、電気が落ちて真っ暗闇となった。漏電でもしてブレーカーが落ちたのだろう。しかしみな恐怖のために混乱状態となり、二人には理解されない言葉にならない叫びが交わされ、駆け足で逃げ去る者、とつぜん乱闘を始める者があちこちに現れ混乱状態となった。

皆、平静を装って日常生活を送っているが、極度の抑圧状態であり、停電の暗闇によって本来的な悪が自覚され、暴力行為によって混乱した状態を突破したのだ。やがて静かになると二人はロッカー室を出た。足下は浸水していた。

暗闇の中、スズキ青年は友人に「ブレーカーが落ちて、排水機能も麻痺したんだね」と声をかけた。

「洪水の上に言葉が通じなくなるなんて、執拗だね」

「あっ、ミネラル・ウオーター忘れちゃった!」

「振り返ったら塩の柱になるよ」

二人は手探りで外への通路を探した。外へは一生出られないと暗闇の中で確信した。