「梨杏に警察に行こうって言ったんだけど、拒否された。これ以上恥を晒したくないって泣くのよ。私のことはもうほっといてって言われて、それから私、家までどうやって帰ったのか全く覚えていないの。
でも、それから梨杏は私の電話に出なくなって、メールも無視するようになった。しばらくそんな状態が続いて、何とかしなきゃって思っても、どうすることもできなくて、そしたらあんなことに・・・・・・」
嗚咽は啼泣へと転じた。
「私があの時逃げ出さなければ、梨杏はこんな目に合わずに済んだのよ。全部私のせいなのよ。ごめんなさい、梨杏・・・・・・」
顔を両手で覆い、肩を震わせながら彼女は涕泣し続けた。海智はうつむいて半ば床を睨むような感じで、膝に置いた拳を強く握りしめていた。
「お前のせいじゃないよ」
一夏はそれでも泣き止まない。
「悪いのはあの四人だ。大聖が死んだのは自業自得だ。でももし、本当に梨杏が奴を殺したっていうのなら、それはやっぱり放っておけない。あんな奴は殺された方がよかったと思う気持ちもあるけど、彼女が人を殺す程の憎しみに駆られ続けるとすれば、それも地獄だ。
あの時何もできなかったのは俺も同じだ。今度は俺も逃げない。この事件を解決して、この不幸を少しでも軽くしたいと思う。だから心配しないで。もう帰って休んだ方がいい」
一夏はようやく泣き止んで、泣き腫らして赤くなった目で海智を見上げた。
「海智、ありがとう。また来るわ」
力なく立ち上がると彼女は病室を出て行った。
【前回の記事を読む】彼女の姿は包帯で嵩ませても、とても成人女性とは思えぬ程小さくあまりにも華奢だった。植物状態で眠るいじめ被害者と高校時代以来の再会。
次回更新は2月2日(日)、11時の予定です。
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