眠れる森の復讐鬼

一体、これが本当にあの信永梨杏なのか。海智はあまりの衝撃に立ちすくみ震えた。最後に見た彼女の姿はもう少し大きく、立派だった気がする。今の彼女の姿は包帯で嵩ませても、とても成人女性とは思えぬ程小さくあまりにも華奢だった。二人はベッドの脇で無言で梨杏を眺め、立ち尽くすしかなかった。

「お茶をどうぞ」

いつの間にか経子が三人分のお茶を淹れてくれていた。「ありがとうございます」と二人はテーブルを挟んで経子と向かい合わせのソファに座った。

「僕は小瀬木海智です。高校の時、信永さんと同じクラスでした。こんなことになってしまって、本当に何て言ったらいいか・・・・・・本当なら八年前にこうしてお見舞いに来るべきだったんでしょうが・・・・・・今、この病棟に自分が入院していて、それでどうしてもお見舞いしなくちゃと思って・・・・・・突然すみません」

彼の言い訳めいた言葉を経子は黙って聞いていたが、突然にこりと笑った。

「小瀬木君ね。覚えているわ。大雨の日に梨杏に傘を貸してくれたでしょ。梨杏とても感謝していたのよ。私に嬉しそうに話してくれたのを今でも覚えているわ」

そんなことを覚えていてくれたのかと感慨に浸って横を見ると、一夏が少し目を見開いて何か言いたげにこちらを見てから、経子に言った。

「経子さん、一昨日、高橋、石川、中村の三人がこの病棟に入院したのを知っていますか?」

経子の表情が一瞬で曇った。窓から差し込む日差しもやや翳り、彼女の皺がより深くなった気がした。

「ええ、知っているわ。ニュースで言っていたけど、まさかあの三人だったとはね」

「昨夜、中村大聖が死亡したことも?」

一夏はさらに畳み掛けた。

「ええ、さっき、ナースステーションで看護師さん達が話しているのが聞こえたわ」

一夏はしばらく黙っていたが、意を決したように口を開いた。

「経子さん、私、梨杏を見たんです」

経子は小首を傾げ、怪訝そうに一夏を見た。

「昨夜、中村が急変する前に、四〇三号室から彼女が出てくるのを見たんです」

経子は一瞬面喰ったようだったが、すぐに破顔一笑した。

「ちょっと、梨杏のお化けを見たって言うの? この子は生きているのよ」

笑われても一夏は硬い表情を崩さなかった。

「冗談じゃないんです。私、本当に見たんです」

一夏のあまりに真剣な様子に、経子も元の陰鬱な表情に戻った。

「そう・・・・・・でも、梨杏は生霊になっても人を殺すような子じゃないわ」

「ごめんなさい、私、そういうつもりじゃ・・・・・・」

一夏は急に萎れて項垂れた。

「信永さんは、あの三人が梨杏さんを虐めていたことは知っていたんですか?」

二人が気まずくなったのを見て、海智が話頭を変えた。