「でも見ただろ、あの身体じゃ、やっぱり起き上がるのは無理だ」
「じゃあ、私が見たものは何だったっていうの?」
一夏は憔悴しきった様子で項垂れた。
「一夏、お前、信永のお母さんと前から会っていたんだな」
彼女は力なく頷いた。閉じていた目をうっすらと開けて海智を見た。
「梨杏は中学の頃から一番の親友だった。よくおうちにも遊びに行っていたから経子さんとも昔から親しくしていたの。高校になってからクラスは違ったけど、ずっと親友だったの。
それがあのいじめが始まって・・・・・・元々おとなしい子ではあったけど、それから笑顔が少なくなって、私といても無理に笑顔を作っている感じ。何か考え事をしていることが多かったわ。それに夜中によく呼び出されるようになったの。私、行っちゃだめって言ったんだけど、何か弱みを握られている感じだった。
ある夜、私が彼女の部屋に遊びに行っている時、またあの三人が彼女を山本公園に呼び出した。私が必死に止めてもやっぱり行かないとって言うから、それなら私もついていくって言って、一緒に行ったの。そしたら公園にあの三人が待っていて、梨杏を連れて行こうとするから、私、止めようとしたら、中村大聖がナイフを取り出して・・・・・・」
彼女は嗚咽し始めた。海智は胸が苦しくなって仕方がなかった。
「私、怖くなって逃げ出したの。気が付いたら自分の家の前に来ていた。それで公園に慌てて戻ったんだけど、もう三人はいなかった。梨杏の姿も無くて、どうなったんだろうと思っていたら、公園のトイレから微かに泣き声が聞こえて・・・・・・トイレのドアを開けたら、梨杏が裸で泣いていたわ。何をされたかは言いたくもない。服は随分遠い所に投げ捨ててあったわ・・・・・・」
海智は腹の奥に以前感じたのと同じどす黒い憎悪が生まれ、今にも爆発しそうになるのを感じた。
(ここまでか、ここまでするのか。一体人間を何だと思っているのか)
昨夜、大聖の死には憐憫こそ感じなかったが、命の儚さを思うところがあった。それが今や、これこそ天誅、ついでに地獄に落ちろと呪うまでに彼の心境は転じた。