結局、配布された予備校教材の復習は、電車での通学時間も有効活用しながら、年間を通して20回以上におよんだが、同じ教材をこれほど復習したことは後にも先にもない。それでも、夜の12時には就寝し、朝の6時まで睡眠をとることができた。

現役時代の生活とはまったく違ったものになった。正直いうと、勉強法について個人的な工夫を加えたかったが、第一志望校合格という結果を短期間で出すために断念した。

東大合格確実圏を1年間維持し、東大理科Ⅱ類を受験し無事合格した。東大の過去問演習などはいっさい行わなかったが、当時の予備校教材は東大の過去問を十分に研究した上で作られているといわれており、それを100パーセント信じた。

東大二次試験では、十分な手ごたえがあったので、解答速報を見ながら、ざっと自己採点をしたら、数学7割、英語8割、現代文9割、古文5割、物理9割、化学9割という結果で、合格は間違いないと確信した。正直、物理と化学は勉強時間が足りなかったのではと、多少の不安を感じていたが、実際の二次試験では「意外に簡単だな」と思うほど実力は上がっていた。

ちなみに、この年は私立大学も2校受験したが、数学の問題に唖然とした。数学でさえマークシートだったのだ。それも、0.1、0.01、0.001、0.0001と同じような数字が並んでいるなかでの選択方式だった。2校とも有名私大であったが、こんなことで数学の点数をつけようとしているのかと相当がっかりした。

一方で、東大の数学二次試験は2時間6問の記述式であった。HBの鉛筆を1ダースと消しゴム3個を準備して、腕時計をその横に置いて万全の体制で試験に臨んだ。手強(てごわ)い問題ばかりであったが、4問解答、残り2問は途中まで記述というところで時間切れとなった。

しかし、2時間全力で鉛筆を走らせた結果、終了後はとても清々しい気持ちになった。強く鉛筆を握っていたせいか、右手中指の先端が大きく窪み多少痛みを感じたが、とても心地よい痛みであった。入学試験でこのようにやり切ったという気持ちになったのは、あとにも先にも東大数学二次試験以外にない。