1 塾
夏期講習
いいこと、何かが起こった時こそ、世情や風評に流されないで、自分の頭で考えることを諦めちゃいけないのよ。
そのためにも知識を身につけることはとても大事。何のために今勉強しなきゃいけないのかっていったら、ちゃんと自分で考えられる人間になるため。判断材料を自分の中に蓄えるためなのよ。歴史という過去から未来を予測することだってできるでしょう。過去が今を創って、今が未来を創るんだから」
晃も大叔母さんの擦り込みなのは知っているけど、毎年この手の話になると父の時とは違って、軽い気持ちでテレビが見たいとか、ゲームがしたいとか言えなくなる。なんだか何も言えなくなるし、挙句に「だから勉強しなさい」と言われるのはわかっているから、もうその前に退散するしかない。
自分の知らない時代。その時代を生きていた人の経験と思いは語り継がれていく。大叔母さんの大恋愛は恋人が戦地で亡くなったので悲恋として永遠に美しいまま語られ、多感な少女だった母はその話を我が事のように今も心に抱き続けているようだった。だけど、それが次の世代の自分に伝わるかというと難しい。まだ恋愛もわからない男の子だしね。
夏休みといっても冷房の効いた部屋でテレビやゲーム三昧の生活は送れず、小さなゲーム機の画面に目を凝らすか、暑い外に遊びに行くしかない。もちろん、家族旅行とか、イベントは色々あったけど、これが小学校最後の夏休み。
かくして夏期講習には、日々、自分で考えられる人間になるために足しげく通ったわけだ。
肌がこんがり黒くなり、アイスやスイカも飽きるほど食べて、夏休みは終わった。
新学期が始まり、夏期講習から入塾した晃の生活は少し忙しくなったが、長い休み明け、やっぱり友達のいる学校生活は楽しい。