しかし今こうして目の前に見上げる空間は伸び代を秘めている。私の抱いていた以上に可能性に溢れ、私の心の中で大きく変化していく兆しが見え始めていた。急に欲望が芽生え始める。このことが後々苦しみの火種となるのである。
夫は「広いなぁ。卓球台が二面は充分置けるよ」と嬉しそう。冗談ではなく高原の別荘はピンポンハウスに傾きかけていた。物件引き渡しの二ヵ月前の二人の会話であった。寝耳に水。大きく変化していく私。全く気付かずにいる夫。
それは突然起こるべくして起きた問題であった。普通であれば、この家を何に使うかは少なからず考えておくべき事柄である。私は方眼紙の上とは全く想定外の姿に建ち上がった家を見て、心の中に大きな変化が起きていたことに気付いていた。
思慮深そうに見えてどこか抜けている女。
「ピンポンハウス?」
はるばる東京から来て二人でピンポンをする家。とんでもないと急に反論する。更にビリヤード台まで置きたいという。この大空間はそのような用途で甘えている代物ではない。
輝いていける何かをきっと探してあげるという強い思いが湧き上がる。一体私は何を考えていたのであろうか? 考えられないような成り行き。
この家に対しての将来の着地点が夫と私とでは大きく異なってきていることに気付いていた。私の心の中の大きな変化。夫の希望もさることながら、私の方にも問題があるのかも知れない。
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