【前回記事を読む】初のヨーロッパアンティークの買い付けに高揚感を抱いていたが...ほとんど意味が伝わらない、常に怒られながらの情けない同行で有った。

初めてのヨーロッパアンティーク買付け

容赦なく襲いかかる買付けの洗礼。

初めて乗るフランス国有鉄道。どこかソワソワとしていた。パリから二時間程して到着したリヨン駅。初めて歩く旧市街のモールを見ているとチラチラとステッキが目に飛び込んでくる。今日はあのガイド役のディーラーが、ルネ・ラリックのコレクターを紹介してくれる段取りになっている。

世界中の業者から狙われているといわれているこのディーラーは、溢れるばかりのベストコンディションのラリックを取り揃えている。驚きながら見詰めている私の視線の先を、彼はいち早く読み取っていた。それは、あの花瓶。重厚な「アヴァロン」。これはパリの田舎の村の風景が名付けられているという。日本で見た記憶は有るけれども、オパールセントの色合いの美しさは実際のオパールにも劣らない深い輝きを放っていた。

「私と共に日本に」。ここで私は顔を見合わせて迷わずに決断する。生き生きとした小鳥の姿もオパール色で美しかった。出発前に抱いていたあの不安。今はもう無い。一つの出会いで私はきっとやっていけるという自信が漲ってきた。

其の後のモールでも十九世紀男性専用倶楽部で使われていた持ち手が足型のナイフ・フォークセットの買付けに成功。これは日本語ガイド付き故であろう。

  あの初めてのパリの夜にしても、もうどんなことが目の前で起きても恐れない。日本で待っているあのステージが、より一層私を闘争的にしてくれる。私は絶対やっていける。

リヨンの郊外を回り、更に南仏のアビニヨン・モンペリエと数日を費やして蚤の市をかけ回る。観光とは無縁のように見えてアビニヨンの宿から高台の教会の金色のマリア像が見える。夕暮時に見たあのマリア像に心をさらわれていた。仕事の途中であることは脳裏には無かった。

これらの体験のすべてが、一人での買付けの自信につながって後々の私の財産となってくれた。夕陽に輝いていたあの金色のマリア像を、私は忘れない。

午後の旧市街のリヨンは人の気配が全く無くなる。歩いているのは私達二人。迷路のようなオーガストコンテ通りのデリカテッセンで店のお姉さんの勧める、ラタトゥイユとパルミジャーノ・レッジャーノを買う。ビールも忘れなかった。この人の気配の全く無い旧市街の昼下りに驚く。