帰りのパリに向かう車中で二人、大人気も無く取り合いのけんかになる。高級レストランよりも、はるかに旨かった。争いながら食べて一つの大きな山を越えた安心感。私達二人はパリ到着迄熟睡していた。

私は沢山の収穫を手にして㐂びに溢れていた。実り多かった初めての南仏での買付け。素人の異邦人であることはすっかり忘れていた。アンティークの知識の乏しさを恐れることはない。大好きなものに出会ったら瞬間的に飛びついていく素早い技が身につく。

最初に入国したパリに戻りいよいよフランスアンティークの世界に。ルーブル美術館脇のル・ルーブル・デ・アンティケールと言われているモールではミュージアムクオリティと呼ばれている品々が溢れていた。そこは投宿ホテルから歩いて一分という地の利故に滞在中に訪れた回数は驚く程であった。振り返ればそれは得難い学習の場でもあった。逸品を見ることは、私自身のクオリティアップにつながっていく。

他に蚤の市等、特に圧倒的なクリニャンクール。初体験で不慣れであるとはいえ、リヨンで育んだ選択眼を生かして精力的に買付けていく。すべての素晴らしさは、その時代の職人による手仕事の美しさ故ということに気付いていた。

特に私が心揺り動かされるものは、日本から訪れている他のディーラーの好みとは何故か異なっていたことは幸いで有った。どんな用途で有ったのか、現在ではもう使われなくなってしまったようなもの。ぶ厚いコッパーで出来ている横長のフィッシュボックスや暖炉用の石炭箱といわれている箱物、その美しさに目を奪われていた。

それ等はすべて重量が有りサイズも大きい。いつも横から「持ってあげないわョ」とH嬢に釘を刺されていた。不馴れな初めての買付け、しょんぼりと「わかった」と言いながらも手で持てる量をはるかに越えてしまう。

初心者はコツもわからずに欲望に負けてしまい怒られながら頭を下げていた。彼女は仕様のない私を助けてくれていた。好きだと思えば、直ぐにゲットしてしまう私は、滞在中での出会いを逃す訳にはいかない。それが素人ディーラーの辿る道。典型的であった。

以降モールや蚤の市は数え切れない程訪れることになる。一人で訪れるたびに初回のこのほろ苦い思い出がよみがえる。未成熟なディーラーの姿を決して忘れない。

この日が始まりであった。懸命に没頭していた私の姿が浮かんでくる。そして後年には、どこでどのようなものに出会えるか、その可能性迄予測がつくディーラーに成長していった。

 

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