【前回記事を読む】初のヨーロッパ買い付けの舞台はロンドンへ――不安と希望に満ち溢れるなか、巨大会場で出会った「ただただ美しいもの」とは…
初めてのヨーロッパアンティーク買付け
初めてのロンドンの巨大会場を見尽くすことは困難である。H嬢との待ち合わせは午後四時。間違えてしまったら一大事、一人ロンドンに戻れないのである。唯一の頼りであるH嬢との待ち合わせ場所の目印は、巨大な白い旗の下であった。他にも数本の色違いの旗がはためいていて会場から離れたところでも見極めることは出来る。
巨大会場故にたどりつく迄、大変である。遠くに彼女の姿を見付けて私は近づきながら笑顔で大きく手を振った。重そうなものを手に持っている私を見て「又重いものを買ったのね」と。私は幸せだった。今日の出来事を止めどなく話し続けていた。
今回のこの体験は其の後の私に大きな影響を与えてくれた。このロンドン・キングスクロス駅は後年ディーラーとして片道百数十回にも及ぶ成田・羽田その往復を繰り返す中で、一番利用した駅であろうと思われる。後年キングスクロス・セントパンクロス駅はイギリスのユーロスター始発駅となる。
こうして様々な出会いや協力を得て一人でヨーロッパやアメリカへの買付けに明け暮れて倶楽部を輝かせていくことが私の人生の究極となっていた。
当時東京有明の国際展示場(ビッグサイト)で開催されていた巨大アンティークフェアー。西洋アンティークエリアに恐れもせずにディーラーとして参戦する。真夏と真冬の各々三日間の開催であり、体力的にも大変ヘビーな戦いではあったが全く素人のこの老ディーラーは恐れを知らない。
自由気ままなブース表現はユーザーの心を捉えていたのかも知れない。好きなように展開していたこの倶楽部がカリスマと迄いわれて人々で埋まるという信じ難い現象に一番驚いていたのは私自身であった。
年二回のこの催事出展も常連となって、高原の倶楽部の知名度は全国的になっていく。この予期せぬ事態は十数年に亘り私の戦場となり、海外買付けに拍車がかかり大きな生き甲斐となっていった。
最初この国際展示場への出展は、余りにも性急過ぎるのではないかという思いが私の心の中に渦巻いていた。催事において今迄と立場が逆転することになる。沢山の出展者に混ざってどのような結果に至るのか、未経験なディーラーは不安がふくらんでいた。