設営に伴う備品等は展示場でのレンタルで支障は無かったけれども高原の倶楽部仕様で持ち込める備品は東京迄運んでおく。辛さもかえりみずに、肉体を酷使していた。

しかしこの出展は倶楽部にとって更なる前進の一歩となった。この倶楽部アイテムのユーザーがこんなにも全国津々浦々にいることに私は驚愕した。それは老若男女と大変幅広い顧客層であった。そのことが更に自信を深めていくことになる。

ファンの人々とも次第に親しい関係が築かれて、催事は私の生き甲斐に迄なっていた。私が一番高齢であった故か、ある時から「姉やん」と呼ばれるようになり、ブース全体でお客様が私を姉やんと呼ぶことが常習化していた。最初に言い出したのは私より三才若いぜいたくなムッシュであった。

「ねェ、お願いだからその言い方好きじゃない」という私に

「だって、そう言いたいんだよ」とニヤリ。

もう仕方ない。愛嬌があっていいではないか。「許す」と国際展示場での姉やんは大ブレイクするに至る。何でも追い風として思うがままに進んでいくこの女にストレスは無かったのであろうか。夢を見ているような日々でもあった。

猪突猛進にも見えて大変臆病でもあるこのディーラー。不思議なものでよく似た個性のお客様の支持を得て倶楽部の色合いが確立していった。まだ道半ばとはいえどこか得体の知れない充実した気持ちで私は舞い上がっていた。夫は倶楽部が変貌していく姿を見ても干渉することもなく、花の木と向かい合っている充実感にただただ溢れていた。

相性のいいフィールドに着地してごきげんな妻と、倶楽部にはそれ程の興味を示していなかった夫。二人は各々の道で幸せだった。

これはひととき辿り着いた安らぎかも知れない。しかしここに至る道のり。人の気配の乏しいこの別荘地の中にあってヨーロッパアンティークなる看板を掲げていることも最初から意図したことでもなく周囲の人々が抱いている不安を気にかけながら流れでこのような形に至ってしまっている無計画さ。この紆余曲折の流れを泳ぐように素人の選択は思いもかけない進化を遂げているのである。

 

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