【前回記事を読む】容赦なく襲いかかる洗礼――フランスでの初めての買い付け。世界中の業者から狙われているというディーラーに見せられたのは…

初めてのヨーロッパアンティーク買付け

不安と希望の交錯する初めてのヨーロッパ買付け。次なるステージはロンドン、パリからの移動は初体験のユーロスターであった。見るものすべてに不慣れなこの女は昔のオリエント急行の空気漂うウエイターを見詰めていた。

この移動は其の後数え切れない程の回数を経験することとなる。二時間程の乗車。フランスでの買付け品は宅配便ですでに発送しているにもかかわらず、沢山の荷物を抱えてロンドンに入国する。当時はウォータールー駅であった。

大荷物の私達二人はタクシーでホテルに向かう。ホテルの車寄せから向かいの路地にパブの明りが見えた。ここは間違いなくロンドンであることを実感する。地下鉄のラッセルスクウェア駅から至近のこのPホテルはチェックイン前からすでに私のお気に入りになっていた。

夜H嬢から滞在中のイギリスでのスケジュールの説明があった。明朝はモーニングビュッフェが開く前にホテルを出発すること等、数点の気を付けることを聞く。この素人ディーラーを指導する彼女も大変である。未経験故かなかなか理解に至らない。自分自身の仕事を目標としてヨーロッパに来ている人に、私の大きな失敗で支障をきたすようなことは決して出来ない。浮かれている場合ではなかった。注意深くついていく。

翌朝地下鉄のシャッターが開くと同時にホームに駆け込む。巨大駅キングスクロスステーションからフェアー会場迄は二時間程の乗車である。差し込む朝日を受けながら想像出来ない世界に向かっている。車窓から見える風景は牧草地であろうか?  果てしなく続いていた。

このフェアーを目指して世界中からディーラーが訪れているという会場。ここではもう彼女の後を、見失わないように歩き続ける広さではない。沢山ある出入口の中で、この白い巨大な旗の立っているポールの下に午後四時に待ち合わせることを約束して二人は会場に散った。ここは巨大競馬場である。沢山の大きな厩舎でのブース展開。あるいは巨大テント。更には露店、と無限である。一体この会場でどのような成果が出せるのか?

私は少し立ち止まってから動き始めた。見渡せない程のはるか遠い端を確認しながら、ここから見付け出していくことへの大きな不安。自分で選択したこの道は途方もなく巨大でどのようにして立ち向かうのか、果てしない会場で抱いている成果が出せるのか、戸惑いの気持ちに覆われていたことは未だに忘れていない。