ディスプレイされているものを一体何に使うのか、そしてそれをどのようにして使っていたのか見当もつかない異国のもの。日本では見たことのない、めずらしいその品々の前に立ち止まり見入っていた。すべては美しかった。それは手仕事、故であろうか?

私は何故かはるか昔の職人の顔や、特注したと思われる当時の人々の顔迄も浮かんでくる。この物たちは豊かな営みの日々が有ったことを語りかけてくれる。様々なものが目に飛び込んできてパリとは又異なった情景を創り上げていた。この巨大会場は私を大きく変化させてくれるステージになっていくだろうという予感に包まれていた。不安は捨てよう。

それでも目に飛び込んでくるもの、ジャンルを問わずお気に入りを買付けながら、何故か心に刺さるアイテムに傾き始めていた。それは大小様々な型の工具である。かつてアメリカ西海岸ロスアンジェルスからサンディエゴに向かう途中にあった、アンティークカーの秘密基地。そこに各々の車に定められた工具セットの美しいキャビネット。

今の私はその時の感動の再現か。ここロンドンの工具の素材は鉄やブラスそして木を巧みに組み合わせて仕上げられている。私の考える実用の領域を超えていてただただ美しかった。

「欲しい」

多分ほとんどのディーラーはスルーであろう。しかし私は出会った美しい工具を惜しげもなく次々とゲットしていった。心の奥にディスプレイイメージが形づくられていくのを感じていた。どこから見ても男性ディーラーの収集であろうと思われる構成。しかしこの倶楽部オーナーは女性であるということも大きな話題であった。

初回買付けのこの工具の類いを巨大な立体額に並べて倶楽部の大壁に雄大に飾ることでステージは更なる風格を増した。一般的には評価の乏しいこのアイテムの展開は一部の層から称賛を浴びた。

自分を大切にして好きなように懸命に追い求めていくことを学んだ。心に描かれている風景に近づきたいと、どんな苦労もいとわない。我武者羅な魂に動かされていた。ハンマー台ともいわれている様々な型をしたアンビルを後年追いかけることにもなる。

 

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