【前回記事を読む】落ち着き始めると又心が揺れ動いてしまう私の性分――夫とは和解し倶楽部の評価も上々。だが心には安定の日々を嫌うなにかが…
倶楽部の行方
かつて専業主婦といわれていた頃、ここ迄深く意欲的な生き方をしていた記憶は無い。訪れる日々を普通にのんびりと、平坦に送っていた。しかしここに至っては異なった人格が顔をのぞかせている。
骨董の知識のある無しなどもう問題ではない。目の前のこのチャンスに飛び込もう。私の心に起き始めている変化。この道こそが私の進むべき道。急に変貌する女。ポジティブシンキング。
それは自然と舞い下りた。未知なる世界を歩んでみたい。見知らぬ日々を夢に描いていた。怯えることは無い。私はきっとやっていける。遠ざかっていく恐怖感。反対する人もいない。さりとて賛同者もいない。
自分の意志で新しい世界に足を踏み入れてみよう。私は未知なる世界への同行を決断するに至った。この大きな変化は、夫との二人の人生で様々な得難い体験につながっていく。この日の決断が源であった。
初めてのヨーロッパアンティーク買付け
これが倶楽部の新たなるステージの始まりであった。ついに未知なる世界への参戦に至る。初めてのヨーロッパアンティーク買付けは、高原の倶楽部が建ち上がってからわずか五年後一九九六年十二月、二週間にも及ぶ行程が組まれた。
全くこのお荷物ともいえる私を誘ってくれたH嬢。彼女にとってはとんでもなくお手数な同行者となる。出発に当たっての様々な説明も、初体験の私には、ほとんど意味が伝わらない感じ。
とにかくビッグなトランクを不慣れに引いて、一メートル程の後から彼女の姿を見失わないようにただただ懸命に追っていた。こうして新たな事柄に立ち向かっている得体の知れない高揚感。
何もわかっていないこのお荷物な女の上に、どんな事柄が待ち構えているのか? 常に怒られながらの情けない同行で有った。
初めての行程はパリに入国してリヨン滞在を経て更に南仏の骨董街を巡り、リヨンの基地に戻りパリへ。後半はロンドンに移動してヒースロー空港出国迄、めまぐるしいスケジュールが詰まっている。覚悟の参戦である。
パリのホテルは、メトロのパレ・ロワイヤル=ミュゼ・デュ・ルーブル駅から地上に出て歩いて一分とかからない。ホテルというよりは小さなこの宿は、中庭の周りに部屋を配した五階建てであった。