目覚めた阿修羅王は、帝釈天と倫理について問答を重ねた末に、誤った進化を目指していた自らの非を認め、帝釈天の説得に応じて改心することを承諾した。これにより、ようやく天部は平穏を取り戻したのであった。

帝釈天は、阿修羅王に、ひとつの話を持ちかけた。それは、聖山(せいざん)にある瑠璃色の石でできた三本柱が立つ丘で、阿修羅王が仏に帰依する神事を行うことで、この先、千手観音として、地上の民を導く役割をしてはどうかという提案だった。

阿修羅王は一瞬考え、その帝釈天の提案を受け入れたのである。その後、神界では、快く阿修羅王を千手観音として迎え入れた。

その後、千手観音となった阿修羅王は、さらに神界の修行を積み、大龍王の称号を得て沙伽羅龍王(しゃがらりゅうおう)を名乗り、神仏の世界で多大な貢献をすることになる。その後、帝釈天と和解し、帝釈天のよき相談役となった。

弁財天の旅の目的は、三種の神器を聖山に納めることであった。聖山は、帝釈天と阿修羅王が戦っていた頃、神々が身の隠し場所とした高山のことだ。風光明媚な聖山では、四季折々の花が咲き乱れ、色とりどりの蝶が舞う。

その美観に魅せられた神々は、かねてより思案していた三種の神器の奉納場所を、聖山の頂(いただき)に定めた。そして、帝釈天と阿修羅王の戦いが終息するまでの間に、聖山で採石した瑠璃色の石を積み上げて三本の石柱を建て、その中央に同じ瑠璃色の石で台座を設けた。

「聖山まではあとどれくらいかのう」弁財天がいった。

「おそらく十里ほどかと」牛馬が応じた。「日が落ちるまでには麓にたどり着けるかと

存じます」

「ふむ。それでは、麓に着いたところで寝床をこしらえることにしようかのう」

「御意にございます」

「そなたらには苦労をかけてすまぬが、もう少し辛抱しておくれ」

「何をおっしゃいますか。弁財天さまの旅に同道できるだけで僥倖(ぎょうこう)にございます」

こうして話している間にも、船車(せんしゃ)童子が力強く軛(くびき)を引いて牛車を前へ前へと進めてくれる。牛車の後ろには、ほかの十五童子が隊列をなしている。二匹の白狼は凛とした面持ちで隊列に連なっている。弁財天は、あらためて従者たちを頼もしく思った。

 

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