眠れる森の復讐鬼

「俺は四一六号室の金清(かねきよ)だ。金に汚くないから金清。よろしくな。君は?」

「四一八号室の小瀬木です」

「四一八号室? 個室じゃないか。若いのに羨ましいなあ。俺なんて四人部屋で碌に手足も伸ばせんよ。若いのに稼ぎがいいのかい?」

「そんなんじゃありません」

(全くこのオヤジ、野次馬に来たのか雑談に来たのか、やたら質問ばかりしてくる。こんな奴とはあまりお近づきになりたくない)

そう思った海智は金清を差し置いて、人気のないナースステーションの横までやってきた。

ナースステーションのカウンター中央上部の天井から二台のセントラルモニターが吊り下げられており、その左側のモニター画面は四段二列に区切られている。その八つの区画のうち六人分の心電図などのバイタルサインが表示されている。

他の五人の心電図は小さい波と鋭いスパイクとその後のなだらかな山形の波のセットが規則正しく連なっていたり、あるいは小さい鋸歯状の波の上に鋭いスパイクが不規則に連なったりしていたが、左側最上部の患者の心電図は全くの水平線を描いていた。

また、他の患者の区画の背景は黒なのにその患者の背景のみ赤色に点滅しており、モニターから鳴り響いているアラーム音の原因がその患者であることは火を見るより明らかだった。他に脈拍、血圧、酸素飽和度も表示される設定になっているが、いずれもエラー表示になっている。患者氏名を見ると「403 ナカムラタイセイ」と表示されていた。

「ありゃ心停止だな。可哀そうに」

気付くといつの間にか海智のすぐ右脇に立っていた金清が呟いた。

あの中村大聖が死ぬ。海智は高校時代の大聖の短い金髪と左耳の三連ピアスを思い出した。勿論憐憫の情など沸くはずがない。この死も自業自得である。

あの頃大聖は喧嘩が滅法強くて、よく武勇伝を喧伝していた。何度殴られても簡単には死にそうにない程の血気と気迫に満ち溢れていた男だったが、こんなにあっさりと死んでしまうなんて人の命は儚いものだと海智は虚しさを感じた。

海智と金清はおそるおそる突き当り左の廊下へと足音を忍ばせながら進んでいった。四〇三号室のドアのすりガラスの窓から灯が漏れている。二人はそのぎりぎりの所まで歩を進めた。部屋の中から声が聞こえてきた。

「何でこんなことになったんだ!」

当直医と思われる男が怒鳴った。