眠れる森の復讐鬼

翌朝は検尿と採血があった。なんてことない検査だが、海智は朝が特に弱い。普段ですら倦怠感が強くて朝はなかなか起きられないのだが、昨夜のあの騒ぎでその後も眠りが浅かったので、今朝は特に体調がすぐれない。しかも、血液検査と検尿は外来で既にしたはずなのに、何故わざわざ入院でまたしないといけないのか腹立たしい。

しかし、我儘だと思われたくないので体に鞭打って処置室まで行って採血してもらった。ついでにナースステーションを見回したが、一夏の姿はもう見えない。

(大丈夫だろうか)

海智は心配になった。一夏は強気な女ではあるが、責任感が人一倍強いせいか失敗すると落ち込みやすいところもある。

(それにしても蒼のあの言い方はないじゃないか。いつからあいつはあんな嫌味な癇癪持ちになったんだ? それに気付いたはずなのにまたこっちを完全に無視しやがった。確かに高校に入ってからは疎遠になったが、中学の頃までは無二の親友と思っていたのに。

秀才と言われていたのに、受験に失敗して水山高校なんかに通うことになったのは相当ショックだったと思うが、だからといって、その頃からこっちが声をかけても一切無視するようになったのは許せない。捻くれるのもいい加減にしろ)

蒼は東京の大学の医学部に行ったと海智は聞いていたが、実家の病院に戻ってきていたとは知らなかった。

そんなことを沸々と思いながら海智が病室に帰ると、面会用のパイプ椅子に一夏が座っていた。結い上げていた茶髪を下ろすと肩までかかるミディアムで昨夜より大人っぽい雰囲気だ。既に白衣は着替えて、ベージュのブラウスと黒いパンツ姿になっている。昨夜泣き腫らしたせいか目の周りに少し隈ができて、顔が蒼褪めている。

何事か考え込むような感じで床の一点を見つめていたが、海智に気がつくと顔を上げ、椅子から立ち上がった。